031735 ランダム
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羂索

羂索

インターホン改訂版。

インターホン3
雅之(34)
まゆみ(32)


焦げたハンバーグがフライパンにのっている。
ぼーぜんとハンバーグを眺めるまゆみ。
インターホンが鳴る。
相手は雅之。
雅之 「(いそいでる)ただいま。開けてくれ!」
まゆみ「何あわててるの?」
雅之 「そんなのいいから、開けてくれ」
まゆみ「トイレ?」
雅之 「違うよ。試合だよ、試合」
まゆみ「あー試合か。どっかよそで見てきたら」
雅之 「何?」
まゆみ「今日、家にはいれないから」
雅之 「入れないってどういうことだよ」
まゆみ「だから、入れないのよ」
雅之 「知ってるだろ、今日勝てば阪神が優勝するって」
まゆみ「知ってるよ、わたしだってタイガース好きだもん」
雅之 「じゃあ一緒に見ようよ」
まゆみ「嫌なの、一緒にいるのが、切るね」
インターホンを切る。
ピンポーン、ピンポーン、ひつこくインターホンを鳴らす雅之
まゆみ「ひつこいなあ」
雅之 「何かしたか俺?」
まゆみ「気がつかないの?」
雅之 「わかんねー、全然わかんねー」
まゆみ「切るね」
雅之 「(あわてて)あー、まって、まって。考えるから」
まゆみ「……」
雅之 「わかった。競馬で二万負けたことだ」
まゆみ「(ビックリして)二万も負けたの?!」
雅之 「(雅之もビックリ)知らなかったの?!」
まゆみ「信じられない。何でそういう無駄なことするの!」
雅之 「無駄って、絶対勝てると思ったから」
まゆみ「勝ったためしないじゃない。勝てないんだから競馬はやめてって前にいったでしょ」
雅之 「……ごめん」
まゆみ「二人できめた約束なんだから。破らないでよ!」
雅之 「お前が一方的に決めたんじゃあ……」
まゆみ「文句あるの?」
雅之 「いえ、別に」
まゆみ「……(冷静に)浮気したでしょ」
雅之 「浮気?してないよ」
まゆみ「嘘つかないで」
雅之 「ついてない!本当だって」
まゆみ「女の人から、電話があったの」
雅之 「何?」
まゆみ「結婚するんでだって。別れてっていってもわかれてくれないんで、奥さんから言ってくださいだって」
雅之 「……」
まゆみ「知らないって言って切ったけど」
雅之 「俺も知らない……」
まゆみ「(取り乱す)とぼけないでよ!なんで、私が別れ話をつたえなくちゃいけないの!」
雅之 「まあ、落ち着けよ」
まゆみ「落ち着いていられるわけないじゃない。雅之にわかる?あの女は、もういらないから私に返しますよってかんじで、優越感たっぷりといったのよ。腹が立つ!」
雅之 「……とりあえず、家の中で話し合おう。試合みながら。そうすればおまえもちょっとは落ち着くだろ」
まゆみ「やっぱり、試合なの?私との問題よりタイガースなの?」
雅之 「(適当に)そりゃ、お前だよ」
まゆみ「なんか、全然心が感じない。そんなのだから、いつまでたっても出世もしないし。競馬も負けるのよ」
雅之 「(むかっ!ときて)いいすぎじゃねえのそれ!」
まゆみ「本当のことじゃない。浮気だっていいように遊ばれただけでしょ」
雅之 「遊んでやったんだよ!」
まゆみ「遊んでやった?浮気見とめるんだ!」
雅之 「あ、違う、違う」
まゆみ「……」
雅之 「きたねー。誘導尋問じゃねえか」
まゆみ「なんで浮気なんてすんのよ。私は雅之のために、朝早く起きて、ちゃんと朝ご飯も作って、きれいに家掃除して」
雅之 「……」
まゆみ「私、雅之の為に一所懸命やってきたつもりよ。浮気されることなんてない。感謝してくれてもいいぐらいなのよ」
雅之 「わかってるよ……」
まゆみ「じゃあなんでするの?雅之は好き勝手して、家帰ってきたら、タイガース、タイガースでなにもしないし、約束破って競馬はするし……」
雅之 「二つとも好きだからしょうがない」
まゆみ「何で好きなの?わからない。そんな無駄なものばっかり真剣にやって…」
雅之 「無駄?」
まゆみ「……実は私タイガース好きじゃないの」
雅之 「えっ?」
まゆみ「本当はジャイアンツの方が好き」
雅之 「……俺と付き合って変わったじゃないの」
まゆみ「そういってただけ。本当は心の中でジャイアンツ応援してた」
雅之 「なんだよ、それ。すごいショック……」
まゆみ「どうして、そんなにタイガースが好きなの?弱いだけじゃない。歯がゆくならないの?」
雅之 「何回も歯がゆくなるよ」
まゆみ「雅之見てると、たまに連勝してもいつ反動で連敗するんじゃないかって喜びながらも心で不安をかかえてる。優勝するぞといいながらも裏切られないようにどこかで喜びを抑えてる。なにが楽しいの?タイガース応援してて」
雅之 「……まゆみには言ってもわからねえよ。阪神応援する気持ちは」
まゆみ「なんでよ」
雅之 「競馬だって負けるからやるなっていうけど、負けるかもしれないからやるんだよ」
まゆみ「わからない。負けるのよ」
雅之 「しっかりしててなんでもそつなくこなせて、なんもひの打ち所がない。そういうやつは阪神のことなんて一生わからないよ」
まゆみ「……」
雅之 「完璧がすべてじゃない。完璧じゃないから好きなんだよ阪神が」
まゆみ「……」
雅之 「まゆみは完璧じゃないと嫌なんだよ。失敗がゆるせないんだよ」
まゆみ「私だって好きでやってるんじゃない、雅之がしっかりしてくれないから」
雅之 「そうか?なんか俺にたいして弱み見せないようにがんばってるように見える」
まゆみ「そんなことない!雅之のためにしてるだけ」
雅之 「淋しくなったんだだから……」
まゆみ「…浮気したの?」
雅之 「……」
まゆみ「……」
雅之 「窮屈なんだよ。まゆみの弱いところ素直にみせてくれてもいいんだろ、もう少しは俺に頼ってよ」
まゆみ「……」
雅之 「……」
まゆみ「……あっ!」
雅之 「(話がそらされてムカッと)何だ!」
まゆみ「今岡がホームラン打った!」
雅之 「えっ!本当か!」
まゆみ「うん」
雅之 「おーっし!いいぞー」
まゆみ「今岡らしく、難しいインコース高めを肘をうまくたたんで打ったよ」
雅之 「(うれしそうに)悪く言えばただの悪球打ちだけどな。詳しくなったな阪神のこと」
まゆみ「そりゃ、雅之と一緒にいつも見てたんだから……」
雅之 「今岡だな、これからの阪神を担うやつは」
まゆみ「……」
雅之 「……」
まゆみ「……タイガースは好きになれなかったけど、雅之の喜ぶ顔を見るのが好きだった。雅之のためにしてたのに、知らない間に自分の立場を守るためになってた、雅之には窮屈だったんだね」
雅之 「俺こそ、俺のために好きでもない阪神応援してくれてた、俺のためにすべてしてくれてた、知らない間に頼りしてたくせに淋しいなんかいって、ごめん」
まゆみ「お互い、もっと素直にならなくちゃいけなかったんだね」
雅之 「そうだよな、浮気してごめん。今本当に思うよまゆみのことが好きだから」
まゆみ「……ハンバーグ食べる?こげてるけど……」
雅之 「めずらしいな、まゆみが失敗なんかするなんて?」
まゆみ「いままで隠してただけよ」
雅之 「食べていいの?」
まゆみ「試合見るんでしょ」
雅之 「ああ、優勝するんだから」

終わり



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